心遣いは言葉遣い

つい最近、友人から相談があった。彼女の91歳のおばあ様が
介護施設に入所されることになり、その施設選びに関する相談
だった。要介護2の母を抱える私だからこそ相談できることなの、
と尋ねられたことは、長期で入所する施設を選定する時に留意
すべきポイントだった。

母はまだ長期入所はしたことないが、週に1度、デイケアサービス
を受けるために通っている施設がある。そこでお世話になることを
決める前に、母と一緒に見学に…。その際に驚いたことは、そこでは
スタッフ全員が、利用者の名前を、“さんづけ”ではなく、“様づけ”で
呼んでいることだった。高齢者とは言え、1人の成人として、個人を
リスペクトして接していただける施設なのだと感動。

そのほかにも選定の際に留意すべきポイントは多数ある。例えば、
出される食事やおやつ(食通にはこれはおっきなポイントだ)、
施設の立地条件やハード面に関すること(明るい場所か、家族の
住居から遠く離れていないか、環境に恵まれた静かな所かなど)、
また、滞在中にどのようなプログラム(楽しく時間を過ごすため、
あるいはリハビリのためなど)を提供されているか、入所されている
方々やそのご家族の様子など色々あるが、中でも一番大切なことは、
やはり日々利用者と接するスタッフの心遣いではないだろうか。
心遣いは言葉遣いにあらわれるもの。

最終的に2箇所に絞り込み、そこから1箇所を友人家族が選んだ
理由は、スタッフの利用者への接し方が決め手となったようだ。
選ばなかった方の施設では、高いレベルの介護やスタッフの質を
売り込みながら、言葉の端々に、「(利用者を)お散歩に行かせる、
外出させる」という表現があったらしい。その言葉を発した裏には
何も悪気はなく、単に使命感から発せられているということは理解
できたが、彼らにとって、利用者は、まず、自分たちが面倒を見る、
コントロールするという対象なんだと思ってしまったとのこと。
そこでは、おばあ様の病状については色々訊かれたそうだが、
個人のことを深く知りたいという様子は見られなかったそうだ。

かたや選んだ施設では、まず、おばあ様を1人の個人として、その
『個』を尊重しようとしてくださっている様子がありありで好感がもてた
とのこと。やはり、心遣いは言葉遣いにあらわれるものなのだ。
スタッフが、利用者のことを“様づけ”で呼んでくださる施設では、
当然、リスペクトの精神で利用者と接していただけるはず。

少し話はそれるが、まだ母が健康で、もっと気軽に一緒に旅行が
できた頃のことを思い出した。大手航空会社の飛行機に搭乗した際、
客室乗務員の女性が、母に対して、「おばあちゃま」と呼びかけた。
その瞬間、母の顔が曇ったことを今でも思い出す。確かに母の年齢は、
彼女のおばあちゃま位かもしれないが、その場では、母は1人の
搭乗客であり、彼女のおばあちゃまではない訳で、そこはやはり、
「お客様」と呼ぶのが筋だろう。

“心遣い”の“遣う”という字は、“思い遣り”(おもいやり)にも使われる
字で、調べると、「(気・心を)工夫して使用する」とある。一方、“使う”
という字は、「機械を使う」というように一般的に使われるようだ。
心遣いは言葉遣い。また、その逆も真なりで、言葉遣いは心遣い
とも言えるのではないか。相手の『個』を尊重し、そこに思いを馳せる
ことにより、真に思い遣りのある言葉遣いができるのだと思う。


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